毎日新生するログ

願わくば長く書き続けることになりますように。

渇望

すっかり忘れかけて油断してた。


蓋が開きかける。


午後、デイケアのプログラムは、依存症に関する書籍の一部を読みミーティングするものだった。


「感情」に関する章


感情とは、感情と行動の関係、感情に対してどう構えるか、要はアルコール依存症というものの中で、不意の感情とどう向き合うか、みたいなことだったと思う。


感情、感覚、行動、記憶


そんな話の読み合わせ中に


もぞ


と蓋が開きそうになる。


酒の事じゃない。


だいぶ前に置いてきたはずの、あれだ


赤く腫れてただれたような質感の親父が登場する時は決まってやばい。


五感がフラッシュバックを起こしかける


あるはずのない音、するはずのない匂い


必死に


ここはデイケア室で


今はもう、そこじゃない


と繰り返し頭で唱える


15時半までに何人かと少し会話したが


今は全く記憶にない。


家に帰るのが何故かできず


繁華街に向かい


頓服を舌下投与して無目的なゴリラのように歩き回る。


破滅したい

台無しになりたい

そもそもいなかったことになりたい


渇望。


頭の中に


全て台無しにして発狂する自分を妄想する


歩きながら


妄想は

甘い響き


生きる

死ぬ


そんな積極的なエネルギーさえない


ただ


思考できなくなることを渇望する自分がいた。


記憶もいらない


過去も、今の自分のすべても


脳が停止してほしいと


渇望した。


膨れ上がった血豆のような親父の顔を思いながら


繁華街を歩いて

歩いて


酒を飲みたい、という気持ちは湧かなかった。


ただ、飲んでも飲まなくても


そんなことより


消滅したかった。


3時間以上無意味に歩き続けて


頓服をもう1錠噛み砕いて


やっと電車に乗り


家に着いた。


さっきまで発狂してしまいたかったやつが


今では一時間前の自分に戦慄してる。


危なかった。


飲酒が、とか

そういうものどころではない


そもそもの


俺の中の一番の「問題」


それは未だ


あのころと何も変わっていなくて絶望した。


依存症の治療、断酒。


大事なこととは思う。


ただ、それを成し遂げたとしても


やっぱり俺の中には


赤黒い「問題」が


依然蓋をして閉じ込めたまま


確実な存在感を放っている。


蓋は不意に開きそうになる。



断酒や、依存症の治療が順調で、


なにか安心しきっていた。


心の中の

脳の中の


あの場所は


なんにも解決していない。


傷ついたり、傷つけたり、そういったことはできない。してはいけないし、勇気もそこまでの無謀な残酷さもない。


ただただ



はじめからそこに無かったものとして


停止

もしくは

消失したい。


そんな渇望。


勘違いしてた。


酒に塗れた俺はもういないけど


箱の蓋を開けられない俺は


あのころから全く変わってない。



永遠のように時間の流れが遅い。

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